2018年11月4日日曜日

SPAC enfant のこどもたちへ

SPAC enfant のこどもたちへ
そしてOver 55のおとなたちへ
ニヤカムさんへ

素敵な作品をありがとうございました。
今回「ユメミルチカラ(旧題タカセの夢)」と「空は翼によって測られる(旧題Angels)」は2010年から7年間関わり、育ててきた作品です。(現在は9年目)子供達はおとなになり、新しい子どもたちがはいり、まさかの大人版と合わせて上演されるこの企画、どうしても見逃す訳にはいかず、伺いました。
わたしにとってはあまりにも思い入れが深すぎて、全てのシーンに9年分のレイヤーがかかるという状況でどこまで説明できるかわかりませんが、それでもお伝えしようと思います。


わたしは2つの作品は基本的に一つの考え方からできているものだと思います。
すべての人が踊る喜びを味わうべきである。そしてそれは本能である。

私自身が関わったのは7年(タカセの夢5年,Angels 2年)ですが、私自身の語学力の問題もあり充分に活躍できていたかはわかりません。通訳できませんと言ったら振付アシスタントという謎の職業を作っていただき、子どもたちとともに泣笑い、幸せな時間を過ごさせていただいていました。



まずは子どもたちに。
Angelsを立ち上げて、このままではダメだと思いました。ニヤカムさんの技術志向はどんどんレベルアップしていくし、そういうことではないと私は捉えました。
大切なことはこの子供達がニヤカムさんと同じ立場で考え、話す環境ではないかと。
私自身の英語力の問題もあり、(ニヤカムさんの語力も5歳児くらいに低下してしまう)離れることを決めました。通訳しろと言われても私はもともと通訳ではないし、私自身も思う事があれば言いたいのに、それは全てニヤカムさんの言葉になってしまう状況を変えたかったのです。
それは作品の構造を壊すことになるかもしれなかったのですが、2年経過して、大丈夫という確信を得たのでやめることにしました。昨年(3年目)の作品を見て、あまりにもしんどくてどうしたらいいか考えました。何度もごめんなさいを言い、たくさん泣いて、でもどうにもならなかった。
でも、今年この作品に新しい構造を作り、生き返らせてくれた事をとてもとても感謝しています。大田垣さんやスタッフさん(これが強力なんです!最強)の力もあると思う。でもきっと子どもたちとニヤカムさんとが一緒に悩み作ってくれたものでしょう。
このAngelsは元々ニヤカムさんのお母さんが亡くなった頃に作成されたこともあり、喪失感がテーマになっています。タカセの夢の子供達がバオバブのもとで年老いて眠っていったあとの世界として設定されていたこともあり、死んだ後の世界を表していました。
でも今年の作品は様々な良きことも悪きことも全てが喪失されたとしても、夢だったとしても、そこには確実に記憶や何かが残っているというところまで持っていってくれました。
そもそもこの作品のタイトルはAngelsでした。
しかし今年のタイトルは(夏のときはAngelsの副題でした)「空は翼によって測られる」になりました。子どもたちが大人になったからと思っていましたが、この詩の原型を読んでみると「私たちには何もない」という言葉に行き着きます。(ちゃんと読むように!本当は今日朝届けにいかなきゃと思ったのですが、残念)
何もないというプロデューサーの投げかけに対し子どもたちとニヤカムさんからの答えが、それでもあるんだというところまできた。その事をわたしはとても幸せな事だと感じます。
見えないものを見ようとする努力、見えない未来を見ようとする努力をしているか。それはダンスハ体育ナリ?で話していたことにつながります。
両手に何かをもっていては新しいなにかはつかむ事ができない。失うから得るものもある。こわさなければ新しいものは生み出せない。何もないからこそ何でもできるし新しいものは生まれるのです。

芸能の本質は2つあります。
ひとつは寿ぎ、予祝系です。皆に幸せを振りまくもの。
ひとつは鎮魂、祈り系です。この世の中のどうにもならないことにあった際に自身の心を抑えるためのもの。

タカセの夢は前者。分かりやすい幸せの提示
空は翼によって測られるは後者。楽しいシーンもたくさんあるけれど、実は喪失がテーマ。2つの作品は陰陽で表と裏のように繋がっています。正直空はは分かりにくい面もあるかもしれない。壊れたその中に何を救い出すか。そういうお話。
私自身が余りにもこれまでの生きてきた過程で払ってきた犠牲が多すぎて、でもこの結末のおかげで少し救われた気がします。ありがとう。

それぞれの将来はわかりません。たとえダンスや演劇に関わらなくとも、ここで学んだ事は人生の糧になると思います。ダンスを職業にしていこうとするのは至難の技。それでも不可能なことではない(自分自身もそうであったように)し、それを切り開いて行くのが人生です。これまでなかった新しい生き方をいかに作り出せるか。それはあなたたち自身次第です。

空は翼によって測られます。
つまり私たち自身の想像力で制限してしまうということです。
私達がどこまですすめるか、私たちがどこまで到達したいかはその人自身が決めることなんです。ひとりひとり幸の形は違います。その勇気を持って。あなたの翼を広げてください。



大人たちへ
タカセの夢(初代タイトルユメミルチカラ)は2010年に作られました。そして世代を変えつつ、様々な冒険を繰り広げてきました。子供達は成長して行くので、キャラクターに合わせて様々な変更もおきました。今回もそれは同じです。
これはダンサーさん達に、今回の変更は動きができなかったからとかではなく、この方がニヤカムさんの本来の世界観に近いと思いますとお話ししました。勿論子供達には技術に優れたこもいて、それを育てよう意識がニヤカムさんにないとは言えない。実際細かくテクニックの指導が入ります。ただこの作品に必要だったのはこの俗にいうテクニックや身体能力を超えて行く事だったのではないかと。この一回できあがった構造をおもいっきり遊び倒すその精神が大事だったのではないかと思うのです。
簡単に言えば、壊す勇気です。
クオリティにとらわれてはいなかったか。ダンスとはそもそも何だったんだろうか。そんなことを思いました。
この作品はニヤカムさん自身が自伝のように行うべきだという宮城さんディレクションもあり、ニヤカムさんが主導を握る作品になっていました。しかし、年齢の妙というか、それぞれの色がうまく出ていたと思います。重要な事はおそらく子供達以上に遊んでいる。その跳んだおばちゃんたちの姿です。体力的にも色々大変だっただろうと推測されます。それでも皆さんがこれを踊ってくれた事で新しい意味が生じた。素敵な事です。


わたしは何分にも9年分のレイヤーとともに見ます。なので、率直な感想とは少し違うと思います。でもだからこそわたしにしか受け取れない価値がある。これを見に来ることができてよかったとわたしは思っています。

ありがとうございました。




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